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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)188号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田中長三郎の上告理由第一点について。

本件手形は、上告会社が昭和二九年六月八日受取人を山栄商事株式会社名古屋出張所と記載して振り出したものであること、右手形中第一の裏書欄には、裏書人として山栄商事株式会社名古屋出張所取締役所長、犬塚雅久、被裏書人として被上告会社と記入してあり、右犬塚の名下に同人の印を押したものと思われる印影のあることは、原判決の引用する第一審判決が確定したところであり、同判決が手形面における叙上の記載から、裏書の連続に欠けるところはなく、被上告人は右手形の適法な所持人とみなされる旨判示するところは、当裁判所も正当としてこれを是認する。

ところで、手形法一六条一項に「みなす」というのは、所論のごとく「推定する」との意味に解すべきであり、したがつて、上告人は被上告人が真実の権利者でないことを証明すれば、権利の行使を拒みうるのであるが、被上告人は、後に論旨第二点について判示するごとく、本件手形を同条二項により善意取得し、実質上の権利者となつたものと認めるべきであるから、上告人は、被上告人の権利の行使を拒みえないのであり、論旨は、結局理由なきに帰する。

同第二点について。

上告人が原審において、抗弁として主張するところによれば、上告会社は山栄商事株式会社の名古屋出張所取締役所長と自称する犬塚雅久なる者に資金の調達を依頼し、同人の求めに従い本件約束手形を山栄商事株式会社名古屋出張所宛に振出し交付したのであるが、山栄商事株式会社は、名古屋出張所を設けたこともなく、同会社取締役に犬塚雅久という者もない。犬塚雅久と自称する者が濫りに「山栄商事株式会社名古屋出張所取締役所長犬塚雅久」なる事実上存在しない名称をもつて裏書したものであるというのである。とすれば、本件手形に受取人として記載されている山栄商事株式会社は、手形上の権利を取得したものではないことは上告人の主張自体からあきらかであり、被上告人は、とりもなおさず、手形上の無権利者から本件手形を取得したものに該当するのである。そして、上告人は、被上告人の本件手形の取得が悪意又は重大な過失によるものであることを立証していないのであるから、被上告人は、手形法一六条二項により本件手形の実質上の権利者となつたものといわなければならない。されば原判決の判示するところは、結局正当であつて、論旨は採用し難い。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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